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人間はなぜ、欲しかったものを手に入れた瞬間から飽き始めるのか

ずっと欲しかったものを、ようやく手に入れた。

箱を開けた瞬間は嬉しくて、何度も眺めてしまう。

「やっぱり買ってよかった」

そう思っていたはずなのに、数日、数週間と経つうちに、少しずつその感動は薄れていく。

そしてある日、また別の素敵なものを見つける。

「これ、欲しいな」

あれほど欲しかったものは、ちゃんと手元にあるのに。

人間はどうして、欲しかったものを手に入れた瞬間から、少しずつ飽き始めてしまうのだろう。

目次

「欲しい」のピークは手に入れる前にある

欲しいバッグを見つけたとする。

かわいい。

これを持って出かけたら素敵だろうな。

あの服にも合いそう。

届くのが楽しみだな。

そんなふうに考えている時間は、とても楽しい。

実は、人間の脳の報酬系は、単純に「快楽を感じること」だけではなく、「これから得られる報酬を予測し、それを追いかけること」にも強く関係している。

だから、何かを欲しがっているときの心は、未来に向かっている。

まだ手に入れていないからこそ、想像できる。

期待できる。

夢を見ることができる。

つまり、

「好き」と「欲しい」は、少し違う。

「好き」が対象そのものへ向かう気持ちだとすれば、「欲しい」には、まだ存在しない未来へ向かう力が含まれている。

だからこそ、手に入れるまでの時間は、あんなにも楽しいのかもしれない。

欲しいものには、「未来の自分」までくっついている

まだ持っていないものは、現実の姿以上に魅力的に見えやすい。

たとえば、素敵なタロットカードを見つけたとする。

これで毎朝カードを引いたら素敵だろうな。

もっと上手に読めるようになるかもしれない。

お気に入りのクロスに並べたら、きっと美しい。

そんな想像が、ひとつの物の周りにどんどん膨らんでいく。

そこには、物そのものだけではなく、

「それを持っている未来の自分」

まで含まれている。

けれど、実際に手に入れた瞬間、それは「未来」ではなく「現実」になる。

カードはカードになる。

バッグはバッグになる。

服は服になる。

もちろん、その物の美しさが失われたわけではない。

ただ、手に入れる前にまとっていた「可能性」が消えていく。

もしかすると私たちは、ときどき物そのものではなく、

「これさえ手に入れば、今より少し素敵な毎日になるかもしれない」

という未来まで、一緒に欲しがっているのかもしれない。

だから、手に入れたあとに少し物足りなくなるのは、その物が期待外れだったからとは限らない。

現実になったことで、「可能性の魔法」が解けただけなのかもしれない。

人間は、幸せにも慣れてしまう

もうひとつ関係しているのが、「快楽順応」と呼ばれる心の働きだ。

人間には、良い変化にも悪い変化にも、少しずつ慣れていく性質がある。

最初は特別だったものが、

「ずっと欲しかったもの」から、

「私が持っているもの」になり、

やがて、

「いつもそこにあるもの」になる。

最初は100だった喜びが、80になり、50になり、30になっていく。

すると、心はまた新しい刺激を探し始める。

そんなとき、別の素敵なものを見つける。

「これ、いいな」

その瞬間、また心が動き出す。

欲しい。

手に入れる。

嬉しい。

慣れる。

そして、また次のものが欲しくなる。

この繰り返しは、意志が弱いから起こるわけではない。

ある意味、とても人間らしい心の動きなのだと思う。

「欲しくならないこと」より、「もう一度見ること」

では、どうすれば満たされるのだろう。

欲しいものを得続けるのは大変なことだ。

でも、欲を無くすのはもっとむずかしい。

大切なのは、

「すでに持っているものを、もう一度見ること」

なのかもしれない。

最初にそのバッグを見つけた日のこと。

箱を開けた瞬間のこと。

使っているうちに革の色が少しずつ変わってきたこと。

カードを広げながら、思いがけない言葉に出会った夜。

窓辺に置いた石に、朝の光が透けていたこと。

新しいものがくれる刺激は、いつか薄れていく。

けれど、長く一緒にいることでしか生まれないものもある。

それが、愛着なのだと思う。

新品だったものに、小さな傷がつく。

少し色が変わる。

自分の手に馴染んでいく。

思い出が増えていく。

そうして物は、「欲しかったもの」から、「自分の暮らしの一部」へと変わっていく。

「欲しい」から「愛でる」へ

「欲しい」と「愛でる」は、よく似ているようで、向いている方向が少し違う。

欲しいものは、未来にある。

愛でるものは、すでにここにある。

人間の心は、放っておけば未来へ走っていく。

次は何が欲しい?

もっと素敵なものはない?

もっと自分を満たしてくれるものは?

そうやって、「まだ持っていないもの」に目を向け続ける。

だから、ときどき立ち止まって問い直してみる。

「次に何が欲しい?」ではなく、
「今ここにあるものの、どこが好き?」

新しいものを手に入れたときの高揚感は、きっと永遠には続かない。

それでいいのだと思う。

そのあとには、もっと静かな喜びが待っているから。

使うこと。

眺めること。

手入れすること。

思い出を重ねること。

そうやって、すでにあるものとの関係を少しずつ育てていく。

もしかすると、満たされるということは、

欲しいものをすべて手に入れることではなく、

「すでにあるものを、何度でも好きになり直せること」

なのかもしれない。

新しいものを手に入れる喜びから、

すでにあるものと、関係を育てる喜びへ。

そんな小さな方向転換が、いつもの暮らしを、少しだけ豊かにしてくれるのだと思う。

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この記事を書いた人

1991年生まれ
静岡市在住

◇ Loves ◇
*花と植物
*モルモット
*ウクレレ

◇ What I do ◇
*イラストとデザイン
*不登校の子どもの居場所づくり
*小学生向け学習塾

◇ Values ◇
*暮らしを愛でること
*好きを育てること
*安心の種を届けること

暮らしを愛でる中で見つけた
小さな幸せや気づきを綴っています。

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